宮崎雑感 7

 

宮崎優
金澤正澄君と浚渫装置
  20年余り前だろうか東京へ出張したとき羽田空港で金澤正澄君に出会った。 「ありゃ、どこへ行きゆう」と尋ねると 、「先生に去年話した浚渫装置で航空公害防止協会から補助金が出るので上京しました」とのこと。モノレールから降りた後、信濃町の構内喫茶へ入って彼の話を聞き「私も航空公害防止協会を訪れる予定だ」と話したことであった。金澤君はその前年高知高専の私の研究室へ来て図面を示して説明してくれたが、彼の発明した浚渫装置は土砂(主成分は酸化珪素と酸化アルミニュームの粒子)と水との形状と比重の違いを巧みに利用して、水混じりの土砂から含水率僅か10%程度のパサパサの土砂だけを取り出す画期的なものであった。つまり土砂は摩擦力と遠心力で螺旋状のスクリューの沿って押し上げられるが、水は浚渫装置の軸に沿って下降するように設計されていた。
 設計図を見て説明を聞くとよく分かるが、自分ではそのような発想はとても思いつかず彼のひらめきに驚嘆したことであった。航空公害防止協会は運輸省の研究と事業委託機関で、金澤君がこのとき受け取った補助金は6千万円であった。私は同協会の機関誌「航空公害 研究と対策」に2回論文を掲載したことであった。羽田で金沢君と出会って1年か2年後、高知新聞で大旺土木がこの装置を使って江ノ口川の浚渫を行った事が報道された。この装置は大いに威力を発揮して江ノ口川の浄化に貢献したと載っていた。
 先日金沢君と連絡したときの彼の話を纏めてみよう。あの浚渫装置を開発したのは大旺造機にいたときです。15年前旺栄開発工業が大旺造機から分離設立されたので、私はそこへ移って研究開発を行ってきました。5年前から東北電力との共同研究で「フロン分解装置」の開発に取り組み製品化し学会発表を行いました。

 

 

フロンR-23は二酸化炭素の1万2千倍の温暖効果があるので、フロン分解は地球温暖防止のため極めて重要です。先日中国へ行って商談が成立しましたが、来週はヨーロッパへ視察に行きますとのことであった。昨年11月同社の社長に就任したそうである。
 私の研究室へ来たとき発想はあるが不安定で、製品化までの道のりはあると言っていた超音波を使った音響測深機や赤外線分光装置も開発に成功し特許を取ったそうである。今までどれだけの特許を取ったであろうか。研究者として経営者としてまさに八面六臂の活躍である。
 学芸時代には体操部の合宿の時、夜中に盈進館の上の窓から出入りしてプールで泳いだり、県体前日のマスゲームの練習をさぼり、家で将棋を指していたのがばれて1日中別室で自習をさせられたり、水泳競技会の後同じ体操部の谷本長都士君たちと一緒に私をプールへ放り込んだり茶目っ気満々であった。20年前浚渫装置で6千万円の補助を聞いたとき「金澤君はなかなかやるな〜」と思ったことであったが、今はフロン分解装置などの開発で地球の環境改善に貢献し、社長として高知の経済発展に寄与している。教え子がその才能をフルに発揮して大きく羽ばたく、元担任としてこれほど嬉しいことはない。

                  2004年5月12日

龍馬の生まれたまち記念館にて  2005年秋