(2014第8回)メリケン国西部 大自然を訪ねて −第8回−
メリケン国の旅も、実質最終日。ラスベガスからこの旅の出発地、ロサンゼルスへと引き返す。片道5時間を要するバスの旅である。
今日は、サンタモニカ、ビバリーヒルズ、ハリウッドなどロサンゼルスとその周辺を巡った後、今夜のフライトで帰国の途につく。メリケン国の大自然を巡ってきた私たち一行。いよいよホテル泊は、今夜が最後。その一夜を、かの有名な町、ラスベガスで過ごそうとしている。
【第6日目 7月1日(火)ラスベガス〜ロサンゼルス(サンタモニカ、ハリウッドなど)〜帰国】
ギャンブルには手を染めず
前回書いたとおり、このツァーでは、歓楽の町、ラスベガスで2夜を過ごしたのに、カジノには、全然立ち寄らなかった。
帰国後、このことを言ったら、周りから変人呼ばわりされた。別に倫理観などでギャンブルに手を染めないわけではない。ひとえに「自分はバクチの才能ゼロ」と知っているからである。
私だって、若い頃には、麻雀やパチンコを嗜んだことがある。宝くじを買ったこともある。しかし、結果はいつでも完敗。7年前に、うちのかみさんは、マカオのカジノで賭け金を4.85倍にしたことがある(香港マカオ旅行記第8回の「かみさんはギャンブラー」参照)が、私自身は、あんな勝負度胸も勝負運も全く持ち合わせていない。
ララスベガスという町
朝食をとりにホテルのレストランへ赴く。一人参加の古田さんが何やら戸惑ったように立っている。どのテーブルに座ればよいか分からないのだという。英語は苦手な様子なので、私が下手な英語でウェイター氏に尋ねると、自由に席を選んで座って、とのことだった。
バイキング方式の朝食をとりながら、それとなくご家族のことなど尋ねてみると、福山さんと同じく、勤務先を引退後、連れ合いを亡くされて一人暮らし。子供さんはすでに独立していて、旅行を何よりの楽しみにして過ごしておられるそうだ。
この古田さん、孤独を好むものの、話をしてみれば、至って常識人であり紳士である。
「カジノには行きましたか?」と尋ねてみた。「いやいや、早めに眠りました」という。
後でツァー一行にも尋ねてみたが、カジノに足を運んだ人という人は、いなかった。たまたまこのツァーの面々は、全員「品行方正」だったか、単にギャンブルに関心がないだけか?いや、言わないだけで誰かは勝負に出たのかも知れない。仮にそうだとしても、少なくとも大金を掴んだ人はいないようである。
このラスベガスという町、日本人女性へのアンケートでは「メリケン国で行ってみたい町」の第2位に入るという。決してギャンブルだけでなく、ショーやサーカスなど、家族連れで楽しめるエンターテイメントも豊富に揃っている、として人気が出ているのだそうだ。
メリケン国流お付き合い
さて、私たちは、バスに乗り込み、ラスベガスを後にしてロサンゼルスへと向かっている。
私たちが走っているハイウェイには、鉄道線路が寄り添い、長大編成の貨物列車が見える。この国でも、旅客輸送の主役は航空機に譲ったものの、貨物輸送は鉄道が大きな役割を果たしているようだ。
道中が長いので、滞米30年の安西さんが、バス車中でマイクを使って、メリケン国の暮らしぶりなどを紹介する。
この国では、互いの自宅に招待しあって、家族ぐるみでお付き合いをするホームパーティーが頻繁に開かれる。料理の準備は、奥さんだけでなくご亭主も手伝うのだが、お客さんの間を回って気の利いた会話を交わしながらもてなすことが不可欠である。
日本人駐在員の奥さん方の中には、この「気の利いた会話」が苦手で、ホームパーティーが苦痛になる人が少なくないという。亭主が居酒屋やカラオケ店で勝手にお付き合いしてくれる日本が恋しくて、早く帰国したい、とホームシックになる人もいるそうだ。
お付き合いが年俸に響く?
しかし、これが大リーグの野球選手となると、なかなか深刻な問題になるのだという。
特に投手の場合、チームメイトと仲良くできているかどうかが、勝敗を分けることもありうる。ここ一番、というピンチの時に、「あいつのためなら」とチームメイトが思ってくれるかどうか、これが大切なのだ。
この点、奥さんが元航空会社の国際線CA、英語も達者でおもてなしが上手だった某投手は、チームメイトが懸命に守備についてくれて、勝負時には勝利をものにできた。だが、奥さんが英語もお付き合いも苦手だった別の日本人投手は、どう見ても損をしていた、というのだ。
メリケン国流お付き合いが上手にできるかどうかで、亭主の年俸が段違いになる。これはもう大変なことである。
メリケン国流フレンドリー
5時間ものバスの旅なので、途中で昼食のため、レストランに入る。
先程、この国のお付き合いのことに触れたが、一方で感心することは、この国では、見知らぬ人同士でも実にフレンドリーに挨拶やスマイルを交わしあうことである。
このレストランでも、見知らぬ黒人の家族連れと目が合った。すると、みんなにっこりして「ハロー!」「ハ〜イ!」と挨拶してくれた。まことに心地よい。
他人と目を合わせないように、関わらないように、と身構えているような日本人とは全然違う。
このことは、阿川佐和子さんがそのエッセイで何度も触れておられる(「どうにかこうにかワシントン」(文春文庫)、「いい歳旅立ち」(講談社文庫)など)。
私も阿川さんと同感。ここはやはり、メリケン国流の方が気持ち良い。
メリケン国へ留学したり駐在していた人たちが、日本に帰国して、電車の中で、みんな押し黙ってスマホをいじっているのを見て違和感を持ち、足を踏まれても知らん顔をされたりして、メリケン国が懐かしくなるというのも分かる気がする。
ロサンゼルスの白い空
再びバスに乗る。やっとロサンゼルスの町に近づいて、遠くに高層ビルが見えてきた。
安西さんがマイクを取る。
「空を見てください。朝、あんなに青かった空が白っぽくなったでしょ。ロサンゼルスの空は、いつもこうなんです。とにかく、やたら自動車が多くて、排気ガスも多いからこうなるんですね。道路がだんだん込んできたでしょう。今、14:45ですが、ラッシュです。ワシントン時間で仕事をしている人たちが帰宅する時間帯だからです。」
「この町は、人口370〜380万人、周辺を含めると1千万人になります。面積は東京都の55%ほどもあるのですが、ニューヨークのような島にできた町とは全然違って、広い面積に大勢の人が住んでいます。ニューヨーカーは、ロサンゼルスのことを『おおいなる田舎』と呼んで揶揄します。」
なお、「ロサンゼルス(Los Angeles)」は、スペイン語で「天使」の意。日本では、よく「ロス」と略すが、これは現地では通じない。だから私も使わない。
サンタモニカへ
ロサンゼルスで最初に向かうのは、サンタモニカ。
厳密に言えば、ロサンゼルス市内ではなく、ロサンゼルス郡サンタモニカ市である。人口84,000人ほど。街路樹の椰子が南国の雰囲気を醸し出すビーチリゾートとして知られている。ここは前述のルート66の西端でもある。
ビーチに近い駐車場でバスを降り、自由散策する。例によって福山さんと一緒に海に向かって歩いていくと、白い砂浜に大勢の海水浴客が見えてくる。天候は曇りなので、水着では少々寒いのでは?とも感じるが、みんな元気だ。海岸の一角が遊園地になっていて、小さいながら観覧車も回っている。時間があればこの観覧車にも乗ってみたいと思いつつ、行列が出来ていることもあって、眺めるだけにした。
福山さんと2人、買い物をするでも遊園地で遊ぶでもなく、露店を覗き込むくらいで、ただぶらぶらと写真を写しながら歩く。
定年後の過ごし方
私「私は、もうすぐ定年です。完全リタイヤ後に何をして過ごすか、少し悩ましいです」
福山さん「私は、会員制のジムに通っています。運動をして汗を流した後、風呂でゆっくりするのが何よりの楽しみです。それと、ジムへ行くとご婦人方の知り合いが出来て、会話が弾みます。こちらも楽しみ、というより、目的の一つです。一人暮らしだと話し相手がいませんから。いいですよ、ジム通いは」
なるほど。体力づくりと話し相手の確保。一石二鳥。リタイヤ後を元気に過ごすには、よい選択肢かも。
少し早めにバス駐車場に戻ると、近くで子供たちが鬼ごっこをしてはしゃいでいた。子供の遊びは、世界共通である。
次回は最終回。高級住宅街ビバリーヒルズ、映画の都ハリウッドを回って帰国の途につく。
ロサンゼルス空港でのお別れの場面では、あの人が感極まって・・・。
−続く−
(2015/02/08)