(2014第6回)メリケン国西部 大自然を訪ねて −第6回−
一度は訪れたかったグランドキャニオン。その雄大な景観を地上から堪能した後、一夜明けた今日は、ヘリに乗って、この大峡谷の上空を遊覧飛行。いよいよこのツァー最大の目玉である。
【第5日目 6月30日(月)グランドキャニオンのヘリ遊覧飛行〜ラスベガス】
へり遊覧
グランドキャニオンの日の出に感動し、ロッジに戻って朝食をとった後は、いよいよヘリコプターでキャニオン上空を遊覧する。幸いにも上天気。あまり風もなく、絶好のフライト日和だ。
バスに乗り込んで、ヘリ専用空港へ。車中で安西さんが説明する。
「ヘリは6人乗りです。パイロットのほか5人ずつ分乗しますので、他の団体の人と一緒になる人も出てきます。全員、簡単な搭乗手続きをしてもらいますが、そのカウンター前に立つと自動的に体重測定ができるようになっていて、皆さんの体重のバランスを瞬時にコンピュータが計算して、搭乗機と座席の配分を決めます。パイロットの隣に座ると視界が良くて超ラッキーです。どなたがその席に座れるかは、まだ分かりません」
「パイロットの隣に座る方は、足元にアクセルのようなものがありますが、これはどんなことがあっても絶対に踏まないようにしてください。大変なことになりますので、くれぐれもよろしく」
テイクオフまで
へり専用空港に着いた。駐機場では、同じ塗装のヘリが3機ほど離着陸を繰り返している。小さいながらも管制塔もあるビルに入ると、受付カウンターがあり、足元に足型が描いてあった。搭乗券を渡しながら足型の上に立てば、そのまま体重測定ができる、という仕掛けである。
待合室で座っていると、萩本さんが番号札のようなものを配ってくれた。私の座席は、パイロットの隣なのだそうだ。やった〜!
ちなみに、他の搭乗者は、後部座席で4人向かい合わせに座るのだという。
同行者の人たちも、このフライトを楽しみにしていたようで、みんなワクワクしてはしゃいでいる。
さあ、テイクオフ
係員に誘導されて、前のドアからパイロットの隣に乗り込み、シートベルトを締める。手にはデジカメ。グランドキャニオンを上空から眺めることは、多分、生涯一度だけの体験になるだろう。しっかり写しまくろうというわけだ。
エンジン音がひときわ高まって、フワリと空中に浮く。あっけない離陸だった。地上の空港ビルが小さくなって高度が上がっていく。森のように樹木が茂ったコロラド高原を見下ろす。道路や鉄道線路が森の中を通っているほかは、何の変哲もない高原が広がっている。
「超別格」の景観
と、突然、高原が大きくえぐれている場所が見えてきた。深い。その底には、昨日も地上から見た緑色の流れ。どこまでも長く続いている。平らな高原をコロラド川が、その流れの部分だけを浸食して、この大峡谷を刻んでいったことがはっきり分かる。ほぼ現在の地形になったのは、200万年前か、と頭の中で反芻し、改めてその壮大さ、気が遠くなるような年月の蓄積に思いをいたす。
すごい!どんな言葉を並べても語り尽くせないほどの巨大な景観だ。カナダ、スイス、ロシア、中国などあちこちで、壮大な自然に触れてきたが、やはりグランドキャニオンは、別格である。いや、超別格である。
そして、上下左右、この視界の広いこと。ほぼ270℃だろうか。飛行機でいえば「副操縦士席」に座った者の役得である。
まあ、いろいろ書くよりも写真を見ていただいて、この感動を感じていただきたい。
バッテリー切れ
デジカメを静止画だけでなく、動画モードにもして、この光景を写しまくる。パイロット氏に「Wonderful!」と言うと、親指を突き出してニコリ。彼も、こういう反応は嬉しいに違いない。
デジカメの電池残量表示が黄色から赤に変わってきた。動画モードで写し続けると、やはり消耗が激しい。そして、ついに液晶が真っ暗になった。
いつもなら焦るところだが、今回は違う。日本で予備バッテリーを購入して充電しておいたものをポケットに入れておいたのだ。昨年ロシア・ハバロフスク駅前で突然、デジカメが動かなくなった経験を踏まえて、周到に用意していたのである。もし、これがなかったら、肝心カナメの場所でデジカメがただの箱になるわけで、後々悔しい思いをしたに違いない。ヘリの座席でバッテリー交換をした私は、また撮影を続けた。
ヘリを降りるときパイロット氏に「Thank you for comfortable flight.」と言うと、彼は白い歯を見せ、握手を求めてきた。
ロシア旅行のお話は
昼食は、グランドキャニオン郊外でサンドウィッチ。と言っても日本のものを想像してもらっては困る。ここでも、その量が半端ではないのだ。
同じテーブルには友永夫妻、広島のおばあさんコンビ、福山さん、そして私。足を痛めていた松永さんも、歩行にはほとんど支障がないくらいまで回復している。
こうしたツァーでは、いつもそうだが、皆旅好きな人たちなので、「あの国は良かった」「次はどこへ行きたい」といった話題で盛り上がる。
ロシアへ行ったことがある人は少ないだろうと思いつつ、昨年のロシア旅行の話をしたところ、意外にも、広島の70歳代、中村さんがバイカル湖の畔、イルクーツクへ行ったことがあるという。
しかし、風景の話などそっちのけで、そのロシア旅行の同行者の話に花を咲かせる。
「一緒に行った人たちは、学校の先生が多かったんじゃけど、ええ年した先生たちが、ロシア人のウェイトレスを眺めんさって鼻の下を長うしとるんよ。そりゃ、向こうの人は、すごいボインちゃんばっかりじゃけぇ。
ほんで、私、言うてやったんよ。あんた方、あのボインに目が釘付けになっとるよ。ああいうのが好きなんじゃろ?ほら好きなんじゃろ、ちゅうて。そしたら、みんな、はっとした顔をするんよ。それがもう面白うて」
「キャハハハハハ!」
友永夫人の笑い声がけたたましく建物全体に響く。中村さんの話も面白いが、友永さんの笑い声だけでも十分に楽しい。私は、彼女に「笑い姫」なるニックネームを密かに献上した。
銃社会 実は最も怖いのは
ヘリによる遊覧飛行に満足し、お腹も一杯になった私たちは、再びバスに乗って、ルート66上のセリグマンという町を経て今夜の宿泊地、ラスベガスへと向かう。
バス車中で、メリケン国滞在30年の安西さんが、マイクを持ってこの国のことをいろいろと説明する。
「メリケン国は銃社会なので危ない、という人がいます。確かに日本とは全然違います。でも、銃を使って人を死傷させたら、最低でも無期懲役です。日本人が思っているほどは、銃による犯罪は多くないんです。むしろ、この国で怖いのは、警察官なんです。
彼らに『停まれ!』と命じられて停まらなかったら、遠慮なく射殺されます。だから、一番怖いのは警察官、絶対に停止命令には従うように、ということをこの国にやって来る留学生や駐在員には、叩き込んでおく必要があります」
日本で発砲したら
日本では、そもそも警察官が銃を使うことなど滅多にない。もし使うとしても、喫緊の場合を除き、まずは空に向けて警告射撃をしてから、ということになっている。
帰国後、警察OBの知人にこのメリケン国警察官の銃使用の話をしたら、「そうですか。日本の警察官は、訓練の時を除けば、一生実弾を発射することなく、定年退職する人がほとんどなのですが。あの国では仕方ないのでしょうかね」と話していた。
ちなみに、日本では、銃器の所持を認められていない民間人が、銃を発砲しただけで、かなり長い懲役刑を食らうことが普通なのだという。まして、銃によって、人を死傷させたら、もう大変。高倉健さん主演の映画のようなことを実際にしでかしたら、重刑間違いなしである。
おっと、旅行記が脱線してしまった。軌道を修正!
メリケン国西部を巡る旅も、残り少々。これから私たちは、ルート66上の町、セリグマンで古き良き時代にタイムスリップした後、再びラスベガスへと向かう。この享楽の町がメリケン国最後の宿泊地だ。ここで私は、何をして過ごしたか?
それはまた次回。
−続く−
(2015/01/25)