(2014第5回)メリケン国西部 大自然を訪ねて −第5回−


 旅行会社のツァーに一人参加してメリケン国西部の大自然を巡っていく私。今日は、いよいよこの旅の目玉中の目玉、グランドキャニオンである。

【第4日目 6月30日(日)モニュメントバレー〜グランドキャニオン】

同行12人


 旅行も4日目になると、同行者の皆さんとも、すっかり打ち解けてくる。旅行が楽しいかどうかは、天候と同行者とでその大半が決まるのだが、今回は楽しいメンバーに恵まれて、旅先でもバス車中でも笑いが絶えない。同行12人。そのプロフィールも、だんだん詳らかになってきた。

北海道は稚内の近く、量販店まで車で1時間かかる山間から出てきたという女性2人連れの山田さんと大石さん。推定年齢50歳代前半。とにかくヒョーキンなおばさんたちで、笑いのネタをたっぷり提供してくれる。

富山県から参加の石川さんご夫妻と奥さんの妹さんの津田さんの3人。60歳代初め頃か。冗談などはあまり飛ばさないが、いつも笑顔を湛えて、人柄の良さを感じさせるご一家。

静岡県焼津市の友永さん夫妻。40歳代後半だろうか、同行者で最年少のカップル。ご亭主は飄々として、奥さんはとにかくよく笑う人。彼女の「キャハハハハ」という声は、この旅をおおいに盛り上げてくれた。

広島県尾道市から参加された70歳代の女性2人連れ、松永さんと中村さん。松永さんは、2日目にザイオン国立公園で足を痛められて心配したが、もうかなり回復して、一人で歩けるようになっている。よかった。中村さんは、あちこち旅行されていて、これまでの旅で経験した面白い話を聞かせてくれる。お二人とも楽しいおばあちゃんである。

そして、
1人参加のオジサンが3人埼玉県の福山さんと群馬県の古田さん、そして私である。福山さんは昭和17年生まれ。私より一回り上のウマ年。古田さんは昭和9年生まれ。「私の母と同年齢ですね」と言ったら驚いていた。お二人とも連れ合いを亡くされて、今は1人で旅行に参加することを楽しみにされているという。福山さんとは、ウマ年同士、ウマが合って、この旅行中、よく行動をともにした。古田さんは、少し孤独癖があるが、決して嫌な人ではない。

以上、旅行客12人に
添乗員の萩本さん、在米30年の現地ガイド安西さん、ドライバーのスミス氏合計15人。これが今回の旅の道連れである。
(以上を含め、文中の人名は、すべて仮名です)

お土産代わりのジャンパーは

グランドキャニオンで買ったジャンパー Made in Chinaだった ところで、私は、この旅でも、
またチョンボをやらかした。

 今朝、ロッジを出発する時に、急いでいて、白い布製の上着をクローゼットの中に吊るしたまま
置き忘れてきたのである。送料を負担して送ってもらったりしたら、新しいものを買う方が安くつく。諦めるしかない。

 にしても、バス車中の冷房は、真夏の服装では少々寒い。そこで、昼食をとったレストランの売店で上着を買い求めることにした。
 ここは、ナバホ族が経営している店。いかにも先住民のデザイン、といった感じの土産物がずらりと並んでいる。Tシャツやひざ掛けはたくさんあるのだが、前開きの上着はなかなか見つからない。そうした中に
「Grand Canyon」という刺繍の入ったジャンパーが吊るしてあった。色目が赤くて派手なのが少々気になるが、これしか売っていない。暖かそうだし、自分用のお土産にもなるから、と思って買い求めた。

 バスの中で広げて袖を通してみると、そのジャンパーには
「Made in China」と書いてあった。
 
二重のチョンボである。

クランドキャニオンへ

この大渓谷を見るためにここまできた グランドキャニオンとコロラド川 広いメリケン国をバスは行く。目指すは国立公園、グランドキャニオン。コロラド高原をひた走って、やっとグランドキャニオン・サウスリムの駐車場に到着した。
 明日はヘリコプターで上空から遊覧するが、今日はこのサウスリム(南壁)から地上観光である。

 
ついに来た。この大峡谷を見たくてこの旅に出たのだ。一生に一度はここを訪れたいとの思いから、分不相応なビジネスクラス運賃を払って太平洋を越え、ここまで来た。

 釈迦に説法のようだが、グランドキャニオンについてちょっとおさらいをしておきたい。

 グランドキャニオンは、約4千万年をかけてコロラド川がコロラド高原を浸食することによって出来た。
 現在のような峡谷になったのは200万年前だというから、気が遠くなるような話である。1979年にユネスコの世界自然遺産に登録、なんて聞くまでもなく、まさに地球の歴史を刻んだ、とてつもなく壮大な地溝であり、地学の教科書にも必ず登場する
「河水の造形による巨大芸術作品」だ。

 その長さは446km。ほぼ東京・米原間の距離である。断崖の平均の深さは約1,200m、幅6km〜29kmに及ぶ。最深地点は1,800mだという。何もかも、その
スケールの大きさに圧倒される。

はるかに見下ろすコロラド川

柵も手摺もない断崖でこの空元気 私たちはバスを降り、コロラド川を見下ろす崖に向かって歩く。サウスリムには、ビジターセンター、ホテル、展望塔などが整備されていて、大勢の観光客で賑わっている。かつて、この地を訪れるには、大変な労力を要したところ、1901年にグランドキャニオン鉄道が開通し、その後、さらに道路も整備されて、現在のような大観光地になったのだ。

 地上を見る限り、普通の平地を移動しているかのようだが、この少し先がコロラド川の流れに沿って
突然深く掘れ込んでいて、断崖になっているのだ。

 崖っぷちに立ってコロラド川を見下ろしてみた。この国の流儀で手摺も柵も何もない。足がすくみそうなほど深い深い谷底に
緑色の糸を横たえたような水面が光っている。対岸が見えるが、少し霞んでいる。思わず「うわぁ!」と嘆声を漏らす私。聞きしに勝る、などと月並みな言葉では表現できない、想像を大きく超えた光景である。いつか訪れたかった場所に、今、間違いなく立っている!眼前に4千万年をかけて造形された大自然!それに比べたら、私の人生なんて、ほんの刹那。様々な感慨、万感の思いが湧いてくる。

古代遺跡のような形の展望塔 古代遺跡のような形の展望塔にも上がってみた。360℃のパノラマが広がる。コロラド高原の上には、どこまでも青いアリゾナの空。そのはるか下では、コロラド川が彼方まで細く長く続く。隣に立っている福山さんも、感じ入った様子である。


記念撮影は昭和40年代で

 みんなこの景色をバックに記念撮影をしている。もちろん私も。福山さんにシャッターを押してもらってパチリ、いや、デジカメだからカシャ!。
 日本人は、指でVサインを作って
「ピース!」とやる人が多い。年代を問わず、みんなこれ。なのに、北海道の実年2女性、山田さんと大石さんは、「シェー!」。そう。昭和40年代に漫画「おそ松くん」の「イヤミ氏」がやって、日本中を席巻したあのポーズである。

自然と共生

私たちの前に現れたリス グランドキャニオン国立公園は、
動植物の楽園でもある。公園内には1,500種以上の植物、355種の鳥類、89種の哺乳類、47種の爬虫類、9種の両生類、17種の魚類が確認されているという。私たちの前にも、リスが姿を現し、足早に去って行った。これらの動物にエサをやることはもちろん、触れることも固く禁じられている。

 ホピ族の少女が舞を披露公園内のホテルの脇から音楽が聞こえてきた。この地の先住民、
ホピ族である。鮮やかな民族衣装をまとった少女が男性たちの奏でる音楽に合わせて舞を披露している。

 ホピの人々は、白人入植者たちの勝手な都合により居住地を追われ、同じ先住民であるナバホの人たちが追い出された土地に移転させられた。このことから、先住民同士で軋轢が生じたりもしている。この人たちも、先祖代々、西部の自然と共生し、穏やかに暮らしてきただろうに。何度も言うようだが、西部開拓史とやらは、
先住民の人々にとって過酷な歴史そのものである。

夕食の話題


 今夜は、グランドキャニオン国立公園内のロッジ泊である。
 夕食は、全員そろってワイワイと賑やかだ。
「キャハハハハハ!」焼津の友永夫人の笑い声が響く。

 震源地は、北海道の実年女性2人組。ヒョーキンおばさん2人組は、本日の宿であるロッジに入った後、要領が分からないまま空調のダイヤルをひねったらしい。すると、みるみる気温が上昇し、暑くて、着ているものを次々に脱いで行ったそうだ。添乗員の萩本さんに助けを求めようとするも、彼女の部屋の電話番号が分からず、そのままの格好で屋外へ出たのだとか。そして、外に出て、初めて
自分たちが下着だけということに気付いたのだそうだ。

【第5日目 6月30日(月)グランドキャニオン〜ラスベガス】

逆立ちで待ってて

グランドキャニオンの日の出を待つ人たち 5日目も朝日鑑賞でスタートする。今朝は
グランドキャニオンの日の出である。

 モーニングコールがAM4:00でロッジ出発はAM4:30。
寒い。ここは標高2,100m。富士山の5合目に匹敵する高原だ。昨日の昼間は半袖シャツだったのに、また真冬の服装で外に出る。そして、今夜の宿泊地であるラスベガスは、昼間気温が40℃近い暑さだという。このツァーでは、ずっと昼夜の温度差がとんでもなく大きい場所を何度も行き来している。
 
 ともあれ、薄明のグランドキャニオンを徒歩で日の出のビューポイントまで移動する。北海道の2人が早足で歩くので、ガイドの安西さんが
「そんなに急がないで。そこで立って待っていて。いや、逆立ちで待っていて!」と声を掛ける。すると、北海道のおばさん2人は、本当にその場で逆立ちをした。

 どこまでもヒョーキンな50歳代である。

朝日鑑賞

 展望台には、既にたくさんの人。寒さに耐えながら、大峡谷の日の出を待っている。このツァー3度目の朝日鑑賞だが、各々、独特な地形の大パノラマが展開するとあって、決して飽きさせない。これこそが、メリケン国西部の雄大さなのである。

グランドキャニオンの日の出 やがて、少しずつ明るさが増して黄金色の朝日が顔を出してきた。そしてゆっくりゆっくり昇っていく。それにつれてキャニオンの陰影が徐々に移り変わり、
大画面の劇場映画を見ているようだ。息をのみながら、この世界自然遺産が演出する巨大ドラマに見入って足が動かなくなる。


 この後、ヘリコプターに乗って、グランドキャニオンを空中から眺める。このツァー最大のヤマ場である。そのフライトで、私は、日頃の心掛けの良さがものをいって、他の面々から、うらやましがられる超ラッキーなことに・・・。
 そのお話は、また次回に。

−続く−


(2015/01/18)




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