(2014第3回)メリケン国西部 大自然を訪ねて −第3回−
ロサンゼルス空港でスローモーション入国審査官に2時間も待たされた後、5時間をかけてやっと最初の宿泊地、ラスベガスに到着。バクチには手を出さずに一夜明け、いよいよメリケン国西部の大自然を巡っていく。その皮切りは、ザイオン国立公園だ。
【第2日目 6月27日(金)ラスベガス〜ザイオン国立公園〜ブライスキャニオン国立公園】
トレイルでトラブル
ユタ州ザイオン公園内では、無料シャトルバスに乗って移動し、公園内のトレイルコースを歩くという。「リバーサイトウォーク」という3.2kmの初心者向けコースである。ちょっとしたハイキング気分だ。
しかし、この「ハイキング」が曲者だった。まだ脚の具合が完璧ではない私は、起伏が多く砂地で滑りやすく狭い道を恐る恐る歩く。両手で周りの木を掴みながら足を滑らせないよう、そして一行に後れを取らないよう、必死こきながら歩き続けた。
やがて、きれいな川に出た。ヴァージン川である。上流域なので、川幅はさほど広くなく、水深も浅い。空はどこまでも青く、山の頂は白い。大自然の中に身を置いていることを実感する。
だが、ここでトラブル発生。一行のうち、後半を歩いていたグループが遅いと思ったら、広島から来られた年配女性、松永さんが段差を降りようとして足を捻って痛めたのだという。萩本さんと安西さんが心配な表情で介抱している。骨折はしていない様子だが、周りが肩を貸さないと歩けない。これは、かなり大変だ。松永さん本人は「私のミスです。ご迷惑をお掛けしてすみません」と恐縮している。
涙はしょぼしょぼ ウィーピングロック
松永さんを支えながら、シャトルバスが通る道路まで戻る。安西さんが「ここまで来たのだから、岩から涙が流れるように雪解け水が降り注ぐ『ウィーピングロック』を見に行きましょう。往復30分ほどです。ご希望の方は、私について来てください」と言う。迷ったが、私も行くことにした。結構きつい坂道を歩きながら着いたウィーピングロックは、水量不足のため、しょぼしょぼとすすり泣く程度にしか「涙」を流してくれなかった。
安西さんが「滝のような涙で号泣するところを見せられなくて残念です」とぼやく。
「自己責任」がメリケン流
再び無料シャトルバスに乗って駐車場へ戻り、もとの貸切バスに乗り換える。
道路は整備されているが勾配の多い山道である。寒冷期にはスリップ事故も起こるだろうが、道路脇にガードレールなど全然設置していない。これでは車が転落するのでは、と思って見ていると安西さんが「冬場にこの道路を走ると危ないことは、誰が考えても分かります。それでもこの道を走るなら、どうぞドライバーの自己責任で、というのがメリケン流のやり方です。だから、ガードレールも作りません」と解説してくれた。
私たちは、碁盤の目のように縦横に線が刻まれた「チェッカーボード・メサ」という岩山などを見ながら、ザイオン国立公園を後にした。
コーラルピンク砂丘とブライスキャニオン
続いて、ユタ州内コロラド高原を走り、コーラルピンク砂丘州立公園という、その名の通りのサンゴ色をした砂岩の変成による砂丘地帯を瞥見した後、今夜の宿泊地であるブライスキャニオンへと向かう。ザイオン国立公園から北東へ約80kmの位置にあり、こちらもユタ州内のモルモン教徒たちが開いた土地である。
コテージのような宿泊施設に落ち着き、夕食後の目玉は星空の観賞だ。「集合は22時にコテージ前で。とても寒いです。くれぐれも防寒対策をお願いします。それと懐中電灯を持参して下さい」と萩本さん。ここは、海抜2,000mを超える高地であり、周りには集落などもない。
ブライスキャニオンの星空観賞
私は、スーツケースからセーターやらカーディガンやらを取り出し、重ねられるだけ重ね着をしてさらにその上にウィンドブレーカー、マフラー、という着膨れ状態で部屋の外へ出た。集合場所に足を運ぶと、毛糸の帽子にダウンのコートという出で立ちの人もいる。さながら南極越冬隊御一行様だ。
足を痛めた松永さんは残念ながら自室で待機。他のメンバー11名がガイドの安西さんの後ろをぞろぞろと歩き、最後尾には添乗員の萩本さんがつく。屋外は真っ暗。私は、100円ショップで買ってきたLEDライトで足元を照らしながら原っぱのような所を歩いた。驚いことに、この寒さの中、テントを張ってキャンプをしている人もいる。
安西さんが上空を指して、「あれが北斗七星で、あれが○○座」と解説をする。幸いなことに雲が少なく、ネオンサインなどの光がないため、天空のキャンバスいっぱいに白く輝く星が瞬きながら煌めいている。時折、流星が画面を横切る。まさに大自然が織りなす天体ショーである。
銀河の流れもゆったりと。「こちらでは銀河は『ミルキーウェイ』と呼びます」と安西さん。「ああ、今、自分は北米大陸の大地にいるんだ」という感慨が湧いてくる。
ただし、星空の拡がりについては、「これくらいなら高知の実家でも見られるな」と思った。異国の空を仰ぎ見て、改めてわが故郷の自然の豊かさを感じた次第。
【第3日目 6月28日(土)ブライスキャニオン国立公園〜ホースシューベンド〜モニュメントバレー】
荘厳な夜明け
メリケン国3日目は、早起きして、ブライスキャニオンの朝日を見に行く。日の出の予想時刻はAM6:10。集合AM5:40厳守でコテージを出る。寒い!気温は5℃ほどだという。またしても厳冬仕様の重ね着で展望台へと向かう。
ブライスキャニオンは、巨大な自然の円形劇場のような形をしている。その円形劇場に、観客のような姿で土柱が林立していて、独特の景観を形作っている。これらは、ポンソーガント高原の東側が浸食によってできたものである。
展望台は、まだ薄暗い中、既に観光客がたくさん詰めかけていた。日本人は意外に少なくて、白人が多い。皆、手に手にカメラを持って、日の出の瞬間を捉えようと待ち構えている。私も、襟元に寒気が入らないようマフラーを耳のあたりまで立てながら、その瞬間を待つ。
次第に明るさが増してきた。やがて、光の輪が半円形になって山の端にかかり、黄色い太陽が上端を覗かせてきた。「おお!」という声が上がり、一斉にシャッターを切る。日が昇るにつれて円形劇場の「観客」である土柱が明るく照らし出され、その影が長く伸びてきた。それが次第次第に変化していく。荘厳な夜明けである。
巨大な人造湖 レイクパウエル
ブライスキャニオンをそぞろ歩いて堪能した私たちは、いよいよこの旅のハイライトであるモニュメントバレーやグランドキャニオンに向けて出発。しかし、そこは広いメリケン国のこと、これに至るまでにも、見逃したり素通りするのはもったいない場所がてんこ盛りである。
そのひとつ、レイクパウエルがバスの左車窓に見えてきた。ここはもうアリゾナ州だ。どこまでも水面が続く。なんとも広大な湖である。実は、この湖は、コロラド川を堰き止めるダムの建設によって出来たもの。全米でも第2位の広さをもつ人造湖である。
メリケン国は、1956年、同国西部への水の確保と発電を目的として、アリゾナ州に「グレンキャニオンダム」の建設を開始した。10年の歳月をかけて高さ216m、幅475mの巨大ダムが完成。そして、キャニオンに水が溜まり始めてから満水になるまでに、なんと17年もの歳月がかかったという。なにしろ、レイクパウエルの全長は186マイルつまり約300km=ほぼ東京・豊橋間の距離=に及ぶというから、これはただ者ではない。プロジェクトの巨大さもさることながら、この国のスケールの大きさに改めて感じ入る。
グレンキャニオンダム
レイクパウエルの南端にグレンキャニオンダムがあり、そのビジターセンターに寄った。建物内にコロラド川周辺の立体模型が展示されていて、これから訪れるグランドキャニオンやコロラド川が大きく湾曲した「ホースシューベンド」の位置を確かめる。安西さんが日本語で説明していると、スタッフの若いメリケン女性が説明中のポイントをレーザーポインターで指し示してくれた。安西さんが「サンキュー!」と言うと女性も、にっこり。日本語は分からないみたいなのに、なかなか気の利いた女性スタッフである。
建物の外に出ると、巨大なダムの堰堤が間近に見える。もしこの高さ216mの堰堤に立って下を見下ろしたら、足がすくむに違いない。屋外には、水力発電用の水車ランナーも展示してあった。ダムの水を受けて回転し、発電機を回す水車である。おそらく、耐用年数が近づいて取り替えたお古を展示しているのだろう。発電所全体の出力は132万キロワット。水力としては大出力だ。
度胸試しのホースシューベンド
次に向かったのは、先述のホースシューベンド。その名の通り、コロラド川が馬の蹄のように大きく湾曲した箇所である。ここが難所だった。それも2つの意味で難所だった。
【難所その1】
その一つ目が熱気と熱砂。
私は、この写真撮影の名所は、バス駐車場から程近い位置にあるものと思っていた。だが、バスを降りて、かなりの距離を歩かなければならないという。しかも、今朝の気温が嘘のように上昇していて、間違いなく30℃を超えている。朝は5℃の高原にいたのに。真冬から一気に真夏だ。暑い!しかも、歩きにくい砂地の道なき道をせっせと、この短足で歩かなければならない。紫外線が強いので、萩本さんのお勧めに従ってサングラスをかけて歩く。
「あの段丘を超えたらホースシューベンドだろうか」と思ったら、まだ道半ばだったりして、なかなかたどり着けない。熱砂を踏みながら歩くものだから、ウマの蹄ならぬ私の足の裏が焼けそうだ。
同行者の中で、私と同じく一人参加の男性、埼玉県から来られた福山さんと並んで歩く。70歳代ながら福山さんは、私よりずっとしっかり進んでいく。
汗だくになって歩くこと約20分、やっと観光パンフなどでよく見るホースシューベンドが見えてきた。
【難所その2】
おお!コロラド川がきれいに湾曲している!
しかし、この断崖はなんだ!川の流れの位置だけ平原が掘れ込んでいる。約300mというから東京タワーに近い高さなのに、手摺や柵など何もない!怖い!いやいや、私は、決して高所恐怖症ではない。なのに、崖っぷちから川を見下ろすのは、腰が引けてしまう。正直、ちびりそうである。
熱く焼けた岩盤の上で腹ばいになって、こわごわとコロラド川の水面が見える位置まで移動するが、湾曲全体がカメラの画面に収まらない。高級一眼レフを提げた福山さんが「写しましょうか?」と言ってくれた。「大丈夫です」と言いたいところだが、強がりなど言ってはいられない。白旗を上げた形で、私のコンパクトデジカメを手渡す。福山さんは、かなりの位置まで崖に近づいて撮影してくれた。右下の写真は、福山さん撮影によるものである。
というわけで、難所その2は、この約300mの断崖。観光パンフやウェブ上に出ているホースシューベンドの写真(実例はこちら)は、命綱でも身に付けて超広角レンズを使って写したものかも知れない。
私たち一行は、「一生に一度は訪れたい絶景」と言われるアンテロープキャンオンを経て、西部劇映画の舞台として知られるモニュメントバレーへと向かう。
その感動的な日の出のことなどなど、続きはまた次回に。
−続く−
(2015/01/04)